PumpNews_September_No.72
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熱学工業株式会社とのチームワークで臨みました。同社の作業所長を務める古川潤さんは、いくつかのプロジェクトで荒井さん、髙橋さんとチームを組んだ経験の持ち主。互いに信頼し合うパートナーだと言います。「空調機器に比べるとポンプは格段にコンパクト。そこにも輻射空調のメリットがあります。かつ一体型構造で立形のTPEを使うことで、驚くほどスペースを省略できました。将来的な更新を考慮に入れ、空間を効率的に使用した配管設計に取り組み、ユニット化をすべて済ませた上で納入しました。設計、施工、そして運用までの流れが非常に効率的で、イニシャルコストも抑えることができました」そう話す古川さんは、機能性に加えて「美しさも重視した」と笑顔を見せます。「日本で最新鋭のオフィスビルの名に恥じないよう、すべてブラックで統一して、スタイリッシュに仕上げました」美しさを追求するための試行錯誤は、ムダのない効率的な配管にもつながっています。荒井さんも「機械室に入れておくのがもったいないくらいかっこいい」と笑います。実際に稼働を始めてからのエネルギー効率も、非常に高い数値が出ています。約1600m2のフロアにおいて、空調機器なら20 kWhほどの電力が必要とされるところ、ポンプが消費しているのは1~2 kWh程度です。輻射空調と スプリンクラーシステムを兼用輻射空調システムを採用するという大きなチャレンジに加え、清水建設が臨んださらなる挑戦がありました。それが、空調用冷温水管とスプリンクラー配管の兼用です。「スプリンクラーの水を建物内の各所に供給するために膨大な配管を必要とします。建設時の環境負荷は大きく、空調用の配管とスプリンクラー用の配管を二重に置くのは設備としてもムダが多い。その解決策を考えていた時に得た着想でした」と荒井さん。兼用すれば、1フロア当たりの使用配管重量を半減でき、建設時のCO2排出量も削減できます。世界でも例のないシステムだったため、あらゆるケースを想定しながら試行錯誤を続け、実験を繰り返します。配管のモデルに実際に火をつけ、スプリンクラーがきちんと作動するかどうか。配管の圧力低下を感知することで漏水をキャッチできるかどうか――検証と実験の繰り返しを経てシステムが形になってくると、次に待っていたのは行政の許認可の取得です。2004年に消防法が性能規定化され、従来の法規制に捉われない新技術の実用化が期待されていたとは言え、前例がないため行政側にとっても判断は容易ではありません。そこで、まずは研究会を開くことからスタートします。「一つひとつ安全性を確認し、理解していただくために、実験や研究会を重ねました。許可が下りたのは、最初の研究会を開始してから2年ほど経ってからのことです」(髙橋さん)配管の兼用は、スプリンクラーの信頼性向上にもつながっています。輻射空調が順調に動いていることは、スプリンクラーの配管内を問題なく冷温水が循環している証明になり、同時に輻射空調の効きが悪くなることは、冷温水の循環に何らかの問題が発生していることを示します。日常的に不具合を感知できることで、スプリンクラーのきめ細かなメンテナンスにつながるのです。次世代への布石に2012年5月15日、新本社が竣工しました。この時点で見込まれた運用初年度のCO2排出量の削減率は、年間で62%。環境や景観への配慮や室内の快適性など、建物の品質を総合的に評価するCASBEE(建築環境総合性能評価システム)では、過去最高得点となるSランクのBEE値9.7を取得しました(2012年2月時点)。超環境型オフィスという名にふさわしい先進技術の数々は評判を呼び、これまで1万人以上の人々が見学に訪れました。実際にオフィスで仕事をするスタッフからの評価も上々です。「設備の省エネ率は、運用の仕方によっても変わってきます。季節や天候に応じた省エネ運転やブラインドコントロール、空調・照明の運転制御など、今後も工夫を重ね、さらなる省エネを進める予定です。ゼロ・カーボンは、すでに射程距離に入っています」と荒井さんは意欲を見せます。プロジェクトを振り返る中、3人の口からは、苦労話よりも「楽しかった」という言葉がよく飛び出しました。「設備設計のチーム内だけでなく、全社横断的に連携して知恵と技術を結集したことが、成功のなによりの要因です。これまで誰も取り組んだことのないことに挑戦している、世界一のものをつくるぞという思いが、全員を結びつける絆とモチベーションになりました」と荒井さん。環境技術の粋が結集した新本社ビルは、エネルギーを自活する未来都市「グリーン・フロート」構想を掲げる清水建設の、新たなスタート地点。未来へのビジョンは、ここから広がり続けています。「省エネ率やライフサイクルコストの削減、快適性など、数多くの利点を持つ輻射空調システムは、今後大型建築物のスタンダードになっていくと思います。現在、運用しながら実績データをとる中で、改善点も見えてきています。その一つひとつを検証し、チューニングを進め、さらなる技術の発展につなげていきたい」(髙橋さん)「建築における環境負荷の低減は、世界のどの国でも求められる第一要件。施工会社である我々にできることは何か――新本社ビルは、その問いへの現段階での答えです。この技術や理念を、日本はもとより世界中に広めていきたい」(荒井さん)「お客様のイメージを具現化し、ものづくりとして落とし込んでいくことが私たちの仕事です。よりコンパクトで、よりエネルギー負荷を抑えた設計……省エネ性の追求に終わりはありません。技術力を以て、お客様のリクエストに的確に応え続けていきたいと思っています」(古川さん)ゼロ・カーボンの鍵を握る輻射空調システム。その心臓部に採用されたグルンドフォスのポンプも、先進テクノロジーの普及とともに活躍の場が増えていきそうです。会議室内の天井。窓際には傾斜のついたフィン型のハイブリット型輻射パネルが貼られ、熱負荷を軽減する仕組みになっている(向かって右側が窓際)。PUMP NEWS6

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