PumpNews_September_No.72
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とです。中でも最重要項目に据えたのが、環境性能でした。「ビル建設において、環境への配慮はすべての基本となる大命題です」と荒井さんは言います。「省エネや再生可能エネルギーを利用して、運用エネルギーをゼロに近づける“ZEB”(ゼブ:ゼロ・エネルギー・ビル)という概念も、広く浸透してきました。新本社では、運用開始後の2015年にカーボン・ゼロを達成することを視野に入れ、設計段階の目標としてカーボン・ハーフを掲げました」基準としたのは、2005年における東京都内事務所ビルのCO2排出量平均値です。厳しい省エネ規制都市である東京では、この時点で多くのビルがエネルギーの効率化を進めており、半減は容易ではありません。オフィスビルの電力消費の割合は、5割が空調、2割が照明、残りがオフィス機器などのコンセントによる消費に分けられます。カーボン・ハーフの鍵を握るのは、空調と照明の消費量の削減率。設備設計チームに課せられた責任は重大でした。「実現のために、意匠、構造、設備など各チームができることを考え、技術開発に臨みました。断熱材の強化、フレームに太陽光発電パネルを組み込んだハイブリッド外装システム、日射を効率的に遮るファサード、LED照明の活用など、全方位的に環境性能を高めていく中、私たち設備設計部門が着目したのが全く新しい空調システムの導入でした」(荒井さん)現在、日本の多くのビルで使われている空調システムは、室内の空気を循環させて温度を調整するエアコン方式です。しかしこの方式では、カーボン・ハーフに必要とされる大幅な省エネには限界がありました。そこで目を向けたのが、輻射空調システムです。「輻射空調は、熱は高いところから低いところへ移動するという性質を利用した技術です」そう説明するのは、空調・衛生設備の設計責任者として実質的に設計を手がけた髙橋満博さんです。「例えば冷房の場合、輻射天井パネルに冷水を流すことで室内の熱が天井に向かい、室内温度が調整されます。エアコンのように風を体にあてて強制的に熱を奪うのではなく、体が発する熱が物理現象として移動していく。そのため室内の温度分布に偏りがなく、快適性が高いのが特長です」従来の空調と比較すると、冷房時はより高い温度設定で、暖房時は低い温度設定で快適さを感じることができます。何よりも、空気に比べて格段に熱搬送効率が高い水を媒体とするため、省エネ率が大きく向上するのです。ただ、課題となったのが結露の発生でした。輻射空調システムは、元々低温低湿の欧米で発達した技術。高温多湿の日本で冷房として機能させると、どうしても結露が発生してしまうのです。解決のために考案したのが、湿度調整システムでした。換気のために取り込んだ外気をデシカント(除湿剤)の付いた空調機で湿度を下げ、床吹出しで室内に供給します。またオフィスで机を並べる各自の足元にはパーソナル床吹出口を設け、それぞれが自由に開閉できるようにしました。体調によって自分で風量を調節でき、より一層快適性がアップする仕組みです。TPEユニットを各階に設置冷温水を搬送するために採用されたのは、グルンドフォスのインバータ一体型モータ搭載インライン立形単段ポンプTPEです。「各階に置くことを考えると、パイプスペースをできる限り最小限に抑える必要があります。検討を進める中で候補に挙がったのが、立形で場所をとらないグルンドフォスのTPEでした」(髙橋さん)これまでにも数多くのプロジェクトでグルンドフォスの製品を採用してきた清水建設。その実績から、性能やアフターフォローには盤石の信頼を置いていたと言います。立形という形態に加え、モータとインバータが一体型だということもTPEの採用を後押しした理由でした。「せっかくポンプをコンパクトに納めても、インバータ盤で場所をとってしまっては意味がありません。インバータが内蔵されているTPEなら、システマチックで占有スペースが少ない。流量も充分で、今回の用途に非常にマッチングしています」省スペースの鍵を握る配管設計には、高砂清水建設株式会社設計本部 設備設計部2部 部長 荒井 義人さん清水建設株式会社設計本部 設備設計部2部設計長 髙橋 満博さん高砂熱学工業株式会社東京本店 技術2部技術1課作業所長 古川 潤さんユニット内のTPEPROJECT納入先:清水建設株式会社 新本社ビル設置場所:2~21階(4階を除く)導入製品:インバータ一体型モータ搭載インライン立形単段ポンプTPE 38台用途:輻射空調とスプリンクラー兼用システムへの冷温水搬送5PUMP NEWS

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